
「急に顔が熱くなる」
「イライラして家族にあたってしまう」
「眠れない」
閉経前後の約10年間 (更年期) は、女性ホルモンの急激な減少により、心と体に様々な不調が現れやすくなります。
これらの症状は我慢するものや性格の問題とご自身を責める必要はまったくありません。
適切な治療とケアを行うことで、辛い症状の改善が期待できます。
当院では、内科医の視点から全身の状態をしっかりと診察し、患者様が快適な毎日を取り戻すためのサポートをいたします。
女性ホルモンの種類と心身への働き
私たちの体内にはインスリンやアドレナリンなど100種類以上のホルモンが存在しますが、その中で女性の卵巣でつくられているのが女性ホルモンです。
ホルモンはごく少量で効果を発揮し、血液中に占める量は50mプールいっぱいの水に対してスプーン1杯程度しかありません。
しかし、この微量な物質が女性の全身の健康をコントロールしています。
美と健康を守るエストロゲン (卵胞ホルモン)
エストロゲンは、子宮内膜を厚くして妊娠の準備をするだけでなく、丸みのある女性らしい体つきをつくるホルモンです。
コラーゲンの産生を促して肌のツヤやハリを保つほか、自律神経を安定させ、血管、骨、脳などを健康に保つ働きがあり、女性の体を守る重要な役割を担っています。
妊娠の準備を整えるプロゲステロン (黄体ホルモン)
エストロゲンの働きによって厚くなった子宮内膜を柔らかく維持し、受精卵が着床しやすい状態に整えるホルモンです。
基礎体温を上げる、水分や栄養素を体に溜め込む、食欲を増進させるといった働きがあります。
生理前に体がむくんだり、眠気や気分の不安定さを感じやすくなったりするのは、このプロゲステロンの作用が関係しています。
女性ホルモンは脳がコントロールしている
卵巣からホルモンを分泌させるよう指令を出しているのは、脳の視床下部と下垂体です。
脳が血液中のホルモン量を感知し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン (GnRH) や卵胞刺激ホルモン (FSH) などを通じて分泌の増減を指示しています。
そのため、強いストレスなどを感じると脳からの指令が乱れ、生理不順などのトラブルに繋がります。
ライフステージ・月経周期によるホルモンの変化と不調
女性の体は、約1ヶ月サイクルの短期的な変動と年齢を重ねるごとに起こる長期的な変動の影響を常に受けています。
【20代〜30代】月経周期の変動とPMS (月経前症候群)
正常な月経周期は25〜38日で、このサイクルは2つのホルモンバランスの上に成り立っています。
排卵後から次の生理が始まるまでの黄体期にはプロゲステロンの分泌が増加するため、この時期にイライラや気分の落ち込み、腹痛、むくみといったPMS (月経前症候群) の不調が起こりやすくなります。
現代の女性は昔に比べて生涯の月経回数が約9〜10倍に増えている*ため、こうしたホルモン変動による負担が大きくなっています。
こんな症状はPMSかも?
- 毎月、仕事や家事など日常生活に支障が出るほど症状が重い
- イライラや落ち込みが激しく、周囲との人間関係に影響が出ている*
- 市販の鎮痛剤が効かない、または年々痛みが強くなっている
*PMDD:月経前不快気分障害の可能性もあります
辛い場合は、我慢せずに婦人科を受診しましょう。
低用量ピルや漢方薬など、医療機関での適切な治療で症状を和らげることが可能です。
*参考:厚生労働省「女性ホルモンとライフステージ」
【40代〜50代】更年期の急激な低下と自律神経の乱れ
エストロゲンの分泌は20代から30代前半にピークを迎え、40代半ばを過ぎると卵巣の働きが弱まり急激に減少します。
すると、脳の視床下部はもっとホルモンを出せと強い指令を出しますが、卵巣はそれに応えることができません。
このギャップによって脳がパニックを起こし、自律神経のバランスが大きく崩れることで、
- なんとなく体調が悪い
- イライラする
- 疲れがとれない
といった、原因のはっきりしない様々な心身の不調が引き起こされます。
これが「更年期障害」と呼ばれるものです。
更年期障害の3大症状と将来の病気リスク
更年期障害の症状の出方や強さは人それぞれですが、大きく分けて3つのタイプが存在します。
また、ホルモン低下は将来的な病気のリスクにも直結します。
血管運動神経症状 (ホットフラッシュ)

自律神経の乱れによって血管の収縮・拡張がうまくコントロールできなくなることで起こります。
周囲の温度に関わらず、突然症状が現れるのが特徴です。
- 急に顔が熱くなる、のぼせる
- 運動したわけではないのにどっと汗が出る
- 突然動悸がする、息苦しさを感じる
精神神経症状

脳の働きをサポートし、心を安定させていたエストロゲンが減少することで、感情のコントロールが難しくなります。
- 些細なことでイライラする、怒りっぽくなる
- 気分がひどく落ち込む、理由もなく不安になる
- 寝つきが悪い、途中で目が覚める (不眠) 、めまいがする
身体症状

血流の悪化や、関節・筋肉を柔軟に保つ作用が低下することで、体に痛みや疲労感が現れます。
- がんこな肩こり、腰痛、関節痛
- 十分に休息をとっても疲れやすい、だるい
- 手足の冷え、しびれを感じる
閉経後の骨粗しょう症・動脈硬化・脂質異常症リスク
更年期を過ぎて老年期 (55歳以降) に入ると、これまで体を守ってくれていたエストロゲンの恩恵がなくなります。
| 閉経後に急増する主な病気リスク | エストロゲン減少との関係 |
| 骨粗しょう症 | 骨密度を保つ働きが失われ、骨がもろくなり骨折しやすくなる |
| 脂質異常症 | コレステロールの増加を抑える働きがなくなり、悪玉コレステロールが増加する |
| 動脈硬化・心疾患 | 血管の健康が損なわれ、心筋梗塞や脳卒中のリスクが男性と同等に高まる |
病院で行う診断と甲状腺疾患との鑑別
その不調が本当に更年期によるものなのか、あるいは別の病気が隠れているのかを正しく診断することが治療の第一歩です。
血液検査 (FSH・E2) による客観的なホルモン値の評価
医療機関では問診に加え、血液検査でホルモン値を測定します。
脳からの指令ホルモンであるFSH (卵胞刺激ホルモン) と、卵巣から出る女性ホルモンであるE2 (エストラジオール) の数値を調べ、客観的なデータに基づいて更年期の状態にあるかを診断します。
症状が似ているバセドウ病・橋本病 (甲状腺の病気) との鑑別
汗をかく、動悸がする、イライラする、だるいといった症状は、更年期障害だけでなく甲状腺機能異常 (バセドウ病や橋本病など) でも頻繁に起こります。
これらは原因も治療法も全く異なるため、血液検査でしっかりと見分ける必要があります。
内科疾患が隠れていないかを必ず確認し、適切な診断を行います。
女性ホルモンを補う・整える治療と対策
閉経によって減ってしまったエストロゲンの分泌を、自力で若い頃のように増やすことはできません。
しかし、外部から補うことや生活習慣でバランスを整えることは可能です。
病院でのホルモン補充療法 (HRT) と漢方薬による治療
症状の強さや患者様のご希望に合わせて、適切な治療法をご提案します。
1.ホルモン補充療法(HRT)
減少したエストロゲンをお薬で少しだけ補う治療です。
ホットフラッシュなどの症状に高い改善効果が期待できます。現代の女性は昔に
飲み薬だけでなく、肝臓への負担が少ない貼り薬 (パッチ) や塗り薬 (ジェル) もあります。
※乳がんや子宮体がん検診を受けていない方は、連携する婦人科での検診をお願いすることがあります。
2.漢方薬
日本人の体質に合いやすく、昔から更年期治療によく使われています。
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) 、加味逍遙散 (かみしょうようさん) 、桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) などを中心に、患者様の体質に合わせて処方します。
食事 (大豆イソフラボン) や生活習慣での対策
医療機関での治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことも非常に重要です。
1.食事とサプリメント
大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、腸内細菌によってエクオールという女性ホルモンに似た働きをする物質に変換されます。
豆腐や納豆などの良質なタンパク質を積極的に摂るほか、エクオールを含む市販のサプリメントを活用するのも一つの方法です。
2.適度な運動やストレスの解消
ウォーキングなどの有酸素運動や軽い筋トレは、自律神経を整えホルモンの分泌リズムを保つのに役立ちます。
運動は、更年期以降に増える体重増加や骨粗しょう症の予防にも効果的です。
また、過度なストレスは女性ホルモンの働きを弱めてしまいます。
十分な睡眠をとり、リラックスできる時間を持つことが大切です。
【豆知識】男性への女性ホルモンの影響について
女性ホルモンを増やす食べ物やサプリメントに関心を持つ男性もいらっしゃいますが、男性が過剰に女性ホルモン様物質を摂取すると、以下のような深刻な副作用を引き起こすリスクがあります。
- ホルモンバランスが崩れて胸が膨らむ (女性化乳房)
- 性機能が低下する
- 肝機能障害
安易な自己判断での服用はお控えください。
お一人で悩まずご相談を
更年期は、女性の人生における大きな転換期です。
辛い症状をコントロールすることは、その後の人生を前向きに、そして健康に過ごすための大切な準備となります。
「こんなことで病院に行ってもいいのかな」
「ただの疲れかもしれないし」
と迷わず、少しでも心身の不調を感じたらどうぞお気軽にご来院ください。
当院では内科のかかりつけ医として、一緒にご自身の体と向き合い、最適なケアを見つけていくお手伝いをいたします。

やさしい内科クリニック院長 山村 聡
日本内科学会認定内科医。糖尿病や甲状腺・内分泌疾患、AGA治療を専門として治療を行っています。最近は保険診療以外にも低用量ピルなど自由診療の治療も実施しています。
経歴
・九州大学医学部卒
・高邦会 高木病院 臨床研修
・昭和大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教
・銀座有楽町内科 前院長
・やさしい内科クリニック開院
参考文献
・厚生労働省「女性ホルモンとライフステージ」
・厚生労働省「女性特有の健康課題」
・Kanpo View「女性のカラダのしくみと女性ホルモン」
・公益社団法人 日本産科婦人科学会「更年期障害」
