なんとなくやる気が出ない、イライラする、疲れが取れない。
働き盛りの世代や中高年の男性で、このような不調を感じている方は、男性ホルモン (テストステロン) の低下による男性更年期障害 (LOH症候群) の可能性があります。
単なる老化現象やうつ病と間違われやすいですが、適切な治療を行うことで心身の活力改善が期待できる病気です。
一人で悩まず、一度ご相談ください。

男性ホルモンの重要な働き
男性ホルモンであるテストステロンは、全体の約95%が精巣で作られます。
筋肉や骨だけでなく、脳や血管など全身の様々な器官に良い影響を与えます。
筋肉や骨の形成と生活習慣病 (動脈硬化・糖尿病) の予防
テストステロンには、筋肉量や骨密度を維持し、内臓脂肪がつくのを抑える働きがあります。
このホルモンが十分に分泌されていると血糖値を下げるインスリンの効きが良くなり、2型糖尿病や脂質異常症、ひいては動脈硬化といった生活習慣病の予防に繋がることが医学的にも明らかになっています。
テストステロンを正常に保つことは、健康寿命を延ばすために不可欠です。
決断力やチャレンジ精神、認知機能への影響
肉体面だけでなく、脳の中枢にも強く作用します。
決断力、冒険心、チャレンジ精神といった前向きな精神状態を生み出す源泉であり、社会的なリーダーシップにも関わるとされています。
さらに、記憶力や認知機能の維持にも関与しており、将来の認知症予防の観点からも非常に重要なホルモンとして注目されています。
男性ホルモンが低下するとどうなる?
テストステロンの分泌量は10代で急激に増え、20代〜30代前半でピークを迎えた後、加齢とともに徐々に減少します。
そこに過度なストレスや睡眠不足が加わると分泌が急激に落ち込み、心身に様々な不調が現れる男性更年期障害 (LOH症候群) を引き起こします。
男性更年期障害の原因とチェックしたい主な症状
加齢による自然な減少に加え、仕事や家庭環境のストレスが発症の大きな引き金となります。
男性更年期障害の主な症状
- 精神症状
- イライラする、意欲が湧かない、理由のない不安感、集中力の低下
- 身体症状
- 寝ても疲れが取れない、ほてり、急な発汗、筋肉量の低下、内臓脂肪の増加
- 性機能症状
- 性欲の低下、朝立ちの減少、ED (勃起障害)
うつ病との見極めとAGAについての正しい知識
意欲低下などの精神症状は、うつ病と非常に似ています。
精神科で治療を受けても改善しない場合、実はテストステロンの低下が原因だったというケースは珍しくありません。
また、男性ホルモンが多いと薄毛になるという俗説がありますが、これは誤解です。
テストステロンが頭皮の酵素によって変換されたDHT (ジヒドロテストステロン) がAGAの原因であり、テストステロンそのものが薄毛を引き起こすわけではありません。
【豆知識】女性の体内における男性ホルモンの影響
男性ホルモンという名前ですが、実は女性の体内 (卵巣や副腎) でも微量に分泌されており、意欲や筋肉の維持に役立っています。
しかし、過度なストレスなどで女性ホルモンとのバランスが崩れ、男性ホルモンが優位になると、皮脂の過剰分泌による大人ニキビ (顎ニキビ) や多毛、生理不順の原因になることがあります。
病院で行う男性ホルモンの検査
ご自身の状態を正確に知るためには、医療機関での問診と血液検査が欠かせません。問診では、世界共通のAMSスコアという質問票を用います。
このスコアが27点以上の場合は、男性ホルモンが低下している可能性が高いとされています。
AMSスコアとは?
AMSスコアは、心と体に現れる以下の17項目の症状について、それぞれなし (1点)、軽い(2点)、中程度 (3点)、重い (4点)、非常に重い (5点)の5段階で自己評価し、合計点数で重症度を判定するものです。
重症度の判定基準
- 17〜26点:なし
- 27〜36点:軽度
- 37〜49点:中等度
- 50点以上:重症
遊離 (フリー) テストステロンの測定と基準値
血液検査では、血液中の総テストステロン量だけでなく、実際に体内で活性を持って働いている遊離テストステロン (フリーテストステロン)* の値を測定します。
この数値が基準値を下回っている場合、男性更年期障害と診断して治療の対象とします。
| 診断の目安 (日本人男性の場合) | 遊離テストステロンの数値 |
| 治療の適応 | 8.5pg/mL 未満 |
| ボーダーライン (低下傾向) | 8.5〜11.8pg/mL |
* 血液中のテストステロンのうち、実際に体内で男性ホルモンとして働くことができる活性型テストステロン (全体のわずか1〜3%) のこと
検査のタイミングと保険適用について
テストステロンの分泌量には日内変動があり、朝が高く夕方にかけて低くなる特徴があります。
そのため、正確な数値を測るには午前中 (できれば11時頃まで) の採血が推奨されています。
更年期を疑う症状があり、医師が必要と判断した場合は保険適用で検査が可能です。
同時に、似た症状を引き起こす甲状腺機能低下症などがないかも鑑別します。
男性ホルモンを増やす・補うための治療と対策
検査の結果、男性ホルモン値が低い場合は、症状やライフスタイルに合わせて適切な治療や生活指導を行います。
病院でのホルモン補充療法とPSA検査の重要性
不足しているホルモンを直接補うため、2〜4週間に1回のペースで筋肉注射による補充療法を行います。
注射後比較的早期から症状の改善が期待でき、低下した活力を補うための有効な治療法のひとつです。
治療において絶対に欠かせないのがPSA検査 (前立腺がんの腫瘍マーカー) です。
テストステロンの補充は潜在的に存在する前立腺がんの進行を促すリスクがあるため、治療前と治療中に安全確認を行う必要があります。
PSAの基準値と数値が高い場合の対応
PSAの基準値は一般的に4.0ng/mL以下とされていますが、年齢とともに上昇することを考慮し、年齢別に以下の数値が推奨されています。
- 50〜64歳:3.0ng/mL以下
- 65〜69歳:3.5ng/mL以下
- 70歳以上:4.0ng/mL以下
この基準値を超えている場合は前立腺がんの疑いがあるため、直腸診やMRI検査、生検などの詳しい検査が必要になります*。
*前立腺肥大症や前立腺炎など、がん以外の病気で数値が上昇することもあります
当院でも定期的に血液検査でPSA値を測定し、前立腺の安全を厳重に管理しながら治療を進めます。
なお、一部の飲み薬 (メチルテストステロンなど) は肝臓への負担が大きいため、現在日本では推奨されていません。
自力でテストステロンを高める生活習慣
医療機関での治療に加え、ご自身の生活習慣を見直すことでもホルモンの分泌を促すことができます。
症状が比較的軽い場合は、漢方薬で体力を補うこともあります。
- 適度な筋トレ
- スクワットなど、下半身の大きな筋肉を鍛える運動が非常に効果的
- 良質な睡眠
- ホルモンは睡眠中に作られるため、ストレスを溜め込まず十分な休養をとる
- バランスの良い食事
- 筋肉の材料となる良質なタンパク質や、亜鉛などのミネラルを意識して摂取する
活き活きとした毎日を一般内科でサポート
男性更年期障害は、加齢とストレスを抱える現代の男性にとって決して珍しい病気ではありません。
昔のような元気が出ないと感じたら、我慢せずに受診してください。
血液検査でホルモン値を測ることで、根本的な解決の糸口が見つかる可能性があります。適切な治療によって、仕事や趣味に前向きに取り組める活力を取り戻しましょう。

やさしい内科クリニック院長 山村 聡
日本内科学会認定内科医。糖尿病や甲状腺・内分泌疾患、AGA治療を専門として治療を行っています。最近は保険診療以外にも低用量ピルなど自由診療の治療も実施しています。
経歴
・九州大学医学部卒
・高邦会 高木病院 臨床研修
・昭和大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教
・銀座有楽町内科 前院長
・やさしい内科クリニック開院
参考文献
・日本内分泌学会「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」
・ツムラ「男性のカラダのしくみと男性ホルモン – 男性の健康と漢方」
